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お友達はだめ
晶は洗面台に手をついて、こみ上げてくる吐き気と闘っていた。品の良い大理石で作られた、手洗い場が視界に入る。流石こういうお店は、お手洗いも綺麗に作られているよう…
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愚者
「自分は一人ぼっちなんじゃないかと感じます」 とある手紙の書き出しは、こんな風に始まっていた。 「おれは、家族もこきょうも元の世界においてきてしまいました。元…
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寝台の上
「ねえ賢者様、今日だけ俺が添い寝してあげようか」 普段通り、こちらをからかうような口調で言われたその言葉に、賢者は少し逡巡した。いつもであれば、フィガロのから…
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ひどく親密ななにか
あの大学教員が「フィガロ」と名乗っていることを、学生たちは特別疑問に思っていないようだった。彼は髪も肌も色素が薄いので、ハーフだとしても違和感がない。けれど、…
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壊れてくれてありがとう
仕事で長く不在だった若が、今日やっと屋敷に帰ってきた。 あまりに嬉しくて、つい夕飯を豪華にしてしまった。それだけではなく、寝所の用意までしようとしている。「…
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夜
多分、前兆はいくらでもあったのだろう。ただ、ここに住む魔法使いの全員が、それを見過ごしていたというだけで。賢者の中で不安の種が徐々に育っていくのを、フィガロを…
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芽生え
朝五時。まだ日が昇りきっていない時間に、ムリナール・ニアールは自室の洗面所に立っていた。自室と言っても、ロドス本艦内で彼に割り当てられた部屋のことである。 …
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魔性
「変わった人なの」 と、前もって姪に教えられていた。 「でも、全然嫌な感じはしなくてね、なんていうか、優しくていい人なんだよ」 そう言われても、イメージが全…
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ふさわしい相手
「時々考えるんだ」 ドクターはそんな風に切り出した。 「君にはもっとふさわしい相手がいるんじゃないかとね」 「ほう」 言葉を返したのは、ドクターの隣に立つシ…
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電話
「いると思わなかった」 電話を繋いだ瞬間の、第一声がそれだった。 執務室の卓上に置かれた、アンティーク調の電話機。そこにかけてくる者は限られていた。耳に飛び…