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薔薇とチョコレートケーキ
ドクターは、真向いに座る男を眺めていた。 昼間のテラス席。白い、アンティーク調のテーブルと椅子。石棺の中で目を覚ましてから、少なくとも十年の月日が流れていた…
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醜悪
シルバーアッシュは今日の昼前にようやく、カランドが所持している地方の支店に着いたところだった。普段は重役用の応接室として使われているらしい部屋で身を休める。午…
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聞き分けのない子供
申し訳ないけど、と口にした瞬間、目の前のオペレーターはあからさまに肩を落としていた。 悪いことをしたな、と思った。ついさっきまでの、緊張でこわばっていた彼の…
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遺書代わりの小説5
小学生の頃、私は他人より少しだけ絵や文をかくのが得意だったので、何度か表彰される機会があった。表彰と言っても、ほとんどが全校集会中に壇上でやる程度のものだ。 …
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口紅と小鳥
きっとこのくらいが丁度いい。ロドスを離れるたびに、シルバーアッシュは自身にそう言い聞かせていた。好んだ相手と四六時中いっしょにいたら身が持たない。一ヶ月に何度…
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遺書代わりの小説4
小学生の頃、私はN市の一軒家に、父と母との三人で暮らしていた。 家は、私が保育園児になってから移り住んだものらしいが、狭く窮屈でボロボロだった。四年生の途中…
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遺書代わりの小説3
それは昼休み中のことだった。 私は教室で自席に座り、シール帳を広げてははいじくりまわしていた。小学四年生の頃の担任は寛容で、他のクラスなら禁止されていただろ…
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遺書代わりの小説2
「Aちゃん、音読してるときいっつもふらふらしてる」 あかねちゃんがそう言っていたのをよく覚えている。 国語の時間に行われる「音読」が、私には憂鬱で仕方がなか…
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残酷で自分勝手な子供みたいに
ここにいる魔法使いのほとんどは、賢者様を子供だと思っているだろう。 そりゃ数百年以上生きていれば、二十数年という時間は瞬きするのと同じくらい短く感じるだろうけど…
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何がどんな風に変わっていただろう
俺が賢者様に聞いてみたいことは、数え切れないほどにある。 「俺のことをどう思ってますか」「俺に触れたいと思ったことはありますか」「俺のことが好きですか」「俺のい…