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酩酊
ある地方都市の、その寂れた酒場にドクターが現れたのは、ちょっとした偶然によるものだった。 ドクターが店に入った瞬間、客たちは気だるげにその姿を一瞥した。しか…
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私じゃ役に立てないね
吐く息が白い。もう春先だというのに雪が降っている。ドクターは手を擦り合わせた。積もるほどには降っていない。ほんの少しの熱と風で、かき消えてしまいそうなほどにか…
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いつか、もしくは50年後に
乾いて淀んだ空気が、寝室の中に充満していた。朝ではあるものの、朝陽が室内に差し込んでくることはない。窓の外にあるのは、横殴りの吹雪ばかりだからだ。 ベッドで…
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薔薇とチョコレートケーキ
ドクターは、真向いに座る男を眺めていた。 昼間のテラス席。白い、アンティーク調のテーブルと椅子。石棺の中で目を覚ましてから、少なくとも十年の月日が流れていた…
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醜悪
シルバーアッシュは今日の昼前にようやく、カランドが所持している地方の支店に着いたところだった。普段は重役用の応接室として使われているらしい部屋で身を休める。午…
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聞き分けのない子供
申し訳ないけど、と口にした瞬間、目の前のオペレーターはあからさまに肩を落としていた。 悪いことをしたな、と思った。ついさっきまでの、緊張でこわばっていた彼の…
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遺書代わりの小説5
小学生の頃、私は他人より少しだけ絵や文をかくのが得意だったので、何度か表彰される機会があった。表彰と言っても、ほとんどが全校集会中に壇上でやる程度のものだ。 …
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口紅と小鳥
きっとこのくらいが丁度いい。ロドスを離れるたびに、シルバーアッシュは自身にそう言い聞かせていた。好んだ相手と四六時中いっしょにいたら身が持たない。一ヶ月に何度…
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遺書代わりの小説4
小学生の頃、私はN市の一軒家に、父と母との三人で暮らしていた。 家は、私が保育園児になってから移り住んだものらしいが、狭く窮屈でボロボロだった。四年生の途中…
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遺書代わりの小説3
それは昼休み中のことだった。 私は教室で自席に座り、シール帳を広げてははいじくりまわしていた。小学四年生の頃の担任は寛容で、他のクラスなら禁止されていただろ…