毒美
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毒美(サイコダイバーシリーズ)
こういう仕事をしている時の常として、業務期間を自由にできないのは仕方のないことだ。依頼があればいつであれ飛び込む。勿論俺に断る自由はあるのだが、それが女の子に…
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毒美(サイコダイバーシリーズ)
すっ転ぶようにして、マンションのエントランスに駆け込んでいく男の背中を俺は追いかけた。持ち逃げした封筒でスーツの尻ポケットをパンパンにした、なんとも情けない後…
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毒美(サイコダイバーシリーズ)
視界に広がる砂浜は、いかにもリゾート地らしい冴え冴えとした白さを持っていた。そのすぐ側で、夜空を映した海が、黒々と光っては波打っている。夜の海というのは、どこか…
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毒美(サイコダイバーシリーズ)
美空は、大ぶりなワインでグラッパを飲みながら、目の前にいる男を不思議な気持ちで見つめていた。向かいの席で、毒島は微かな微笑を口に留めながら酒を飲んでいる。つい先…
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毒美(サイコダイバーシリーズ)
「ところでよ」 「はい」 「本当の名前は、いつ教えてもらえるんだい」 その言葉に、美空は心持ち首を傾げてみせた。そして、隣に座る男へ視線を向ける。きっちりと折り…
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毒美(サイコダイバーシリーズ)
「やい、美空」 突然そう声をかけられても、美空は驚かなかった。その声の持ち主が毒島であることも、その毒島が背後にいたことにも、彼はずっと前から気がついていたのだ…
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毒美(サイコダイバーシリーズ)
「じゃあ、以前は青山のマンションに住んでいたんですね」 美空の言葉にそうだと頷いてみせる。二年前、おれは青山のマンションで一人暮らしをしていた。庶民には手の届か…
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いつか忘れゆくはずだったもの
「美空さん、あたし、池袋のラウンジで働き始めたの」 あどけない女の声だった。ようやく20代に入ったかどうかという幼さを滲ませていた。留守電に入っていたその声に、…
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駆け引きにもならない問答
「おめえが女だったら良かったのにな」 おれは、ずいぶん前から思っていたことを美空に言ってやった。対面に座る美空は、ちらりとこちらに視線を向けた後、すぐに目を伏せ…
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愛すべき珍獣または隣人として
その日、東京では珍しい大雪が降った。 コンクリートは白く染まり、それだけでなく屋根や看板や車の上にも雪がやわらかく積もっていった。テレビのニュースでは、電車やバ…