フィガ晶♂
-
誰かに撒いた餌か毒
恋人から電話がかかってきたのは、午後の仕事がちょうどひと段落した頃だった。着信名を確認し、電話をつなぐ。 「フィガロ?」 雑音越しに聞こえる恋人の声に、思わ…
-
水を吐いては息継ぎをする
はじめてそこに連れていかれた日のことを、晶はよく覚えている。晶が小学二年生の時の、冬のように寒い秋の昼間のことだった。 受付をする母親の後ろ姿。いかにも待合…
-
残酷で自分勝手な子供みたいに
ここにいる魔法使いのほとんどは、賢者様を子供だと思っているだろう。 そりゃ数百年以上生きていれば、二十数年という時間は瞬きするのと同じくらい短く感じるだろうけど…
-
ゆりかご
フィガロには、幼少期から何度も繰り返し見ている夢がある。おそろしく巨大なものが、こちらへ押し寄せてくる夢だ。 夢の中で、フィガロは子供の頃の姿をしている。ミチル…
-
今はそんなに楽しくないね(※R18)
その日は雨が降っていた。雨の勢いは穏やかで、耳を澄ましてもさざなみのような音がするばかりだった。午後五時半。帰りの電車は息苦しいくらい混んでいた。 その時、…
-
フィガ晶♂(魔法使いの約束)
「それ、前に来た時はかけてなかったよね」 俺はその言葉に、どう返事をしていいか分からず、カウンターの中に突っ立ったまま、咄嗟に作り笑いを浮かべた。 俺は目の前に…
-
献身
献身。彼のそれを目にするたびに、俺はいつも戸惑ってしまう。彼は見返りを求めない。下心も感じられない。だからこそ俺は戸惑い、困ってしまう。だって、俺の方はむしろ…
-
夜気と紫煙
都心のマンションから、のどかな住宅地のアパートに引っ越してきたことについて、特に大きな理由なんてなかった。女の子を連れ込みすぎて、危ない思考回路の子に刺されか…
-
お友達はだめ
晶は洗面台に手をついて、こみ上げてくる吐き気と闘っていた。品の良い大理石で作られた、手洗い場が視界に入る。流石こういうお店は、お手洗いも綺麗に作られているよう…
-
愚者
「自分は一人ぼっちなんじゃないかと感じます」 とある手紙の書き出しは、こんな風に始まっていた。 「おれは、家族もこきょうも元の世界においてきてしまいました。元…