魔法使いの約束
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談話室
ミスラは談話室の一人がけのソファーに座り、ひたすらに目を閉じていた。高級そうな布地で作られた、ふかふかとした肘掛けの感触を両手に感じていたが、ミスラがそれを心地…
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ドーナツ
日付が変わる直前になっても、ミスラは魔法舎に帰っていなかった。賢者はミスラの私室のベッドに腰掛け、ぼんやりと部屋主を待ち続けた。添い寝の約束をしていたわけでは無…
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無題
「ミスラのほうきって、かっこいい見た目ですよね」 深夜、いつものようにミスラの部屋を訪れた賢者は、ベッドサイドの椅子に腰掛けて、ベッドに横たわるミスラと手を繋い…
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プレート
ミスラが魔法舎の2階を歩いていると、賢者の部屋のドアに、見慣れぬものが掛かっているのに気づいた。 それは、猫の顔の形にくり抜かれた、木製のプレートだった。顔一面…
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献身
献身。彼のそれを目にするたびに、俺はいつも戸惑ってしまう。彼は見返りを求めない。下心も感じられない。だからこそ俺は戸惑い、困ってしまう。だって、俺の方はむしろ…
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夜気と紫煙
都心のマンションから、のどかな住宅地のアパートに引っ越してきたことについて、特に大きな理由なんてなかった。女の子を連れ込みすぎて、危ない思考回路の子に刺されか…
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お友達はだめ
晶は洗面台に手をついて、こみ上げてくる吐き気と闘っていた。品の良い大理石で作られた、手洗い場が視界に入る。流石こういうお店は、お手洗いも綺麗に作られているよう…
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愚者
「自分は一人ぼっちなんじゃないかと感じます」 とある手紙の書き出しは、こんな風に始まっていた。 「おれは、家族もこきょうも元の世界においてきてしまいました。元…
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寝台の上
「ねえ賢者様、今日だけ俺が添い寝してあげようか」 普段通り、こちらをからかうような口調で言われたその言葉に、賢者は少し逡巡した。いつもであれば、フィガロのから…
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ひどく親密ななにか
あの大学教員が「フィガロ」と名乗っていることを、学生たちは特別疑問に思っていないようだった。彼は髪も肌も色素が薄いので、ハーフだとしても違和感がない。けれど、…