毒美(サイコダイバーシリーズ)

視界に広がる砂浜は、いかにもリゾート地らしい冴え冴えとした白さを持っていた。そのすぐ側で、夜空を映した海が、黒々と光っては波打っている。夜の海というのは、どこか魔術じみた、秘めやかな魅力があると美空は思った。

波の音に混じって、後方から賑やかな喧騒が聞こえてくる。このリゾートを経営している男が、客を集めてバーベキューパーティーをしているのだ。そこには、あの陰陽師ひるこや鳳介も参加している。そして、今ここで浜辺を歩いている美空と毒島も、ついさっきまでそれに加わっていたのだ。

騒動が無事に解決したお礼にと、依頼主である経営者が報酬とは別にこのパーティーへ招待した。美空は、顔だけ出してすぐに部屋へ戻る予定だった。始まって少し経ったあたりで、ひるこが若い男に声をかけてはじゃれ付き始めた。それを見た毒島が、あからさまに顔を歪めてこう言った。

「付き合い切れねえよ」

そしてパーティーを抜けようとする途中で、何故か美空の手を取って「行こうぜ」と言った。なぜ毒島が美空を連れて行くのか、誰も指摘しなかった。それとも、気がつかなかっただけなのかもしれない。ともかくそういう風にして、二人はパーティーを抜け出して夜の海辺を歩いていた。

「どういう二人組に見えてるんでしょうね、僕たちは」

美空のその言葉に、特別他意は無かった。ただ純粋に疑問に思ったのだ。

美空は普段より軽装とはいえ、シャツにスラックスという格好だ。毒島の方も、いつものスーツを身につけている。夏用に仕立てられているものだとは思うものの、砂浜を歩くにはあまりに似合っていない。

「そりゃあ__」

毒島の声がそこで途切れる。不審に思った美空が足を止めて振り返るのと、背後から抱き寄せられたのは同時だった。密着した体は、驚くほどに熱く感じた。されるがままになっているうちに、美空は近くの岩陰に引き摺り込まれていた。声を上げる間も無く、唇を塞がれる。砂に手をついたせいで、指の股がざらざらとしていた。

「こういう関係だろ」

それからは、性急に事が進んだ。

「野外でするのは、久しぶりですね」

「へえ?」

「もう何年かぶりになりますよ」

「おれは、ついこの間女の子としたばかりだ」

毒島が美空に覆い被さる。それだけで、広い背中に月明かりが遮られた。

「でも、男相手はお前がはじめてだよ」

すぐ近くで、波の砕け散る音がする。夜の海の空気は驚くほどつめたく、それでいて粘り気のある潮風を含んでいた。その冷たさの中に、月光の気配が含まれているような気がして、それをより感じ取ろうと美空は目を閉じた。

「寝るな」

やけに真面目な声で言われて、美空はつい笑みを浮かべる。肌に触れる風は冷たいのに、体の内側はずいぶん火照っているような気がした。