赤い紫陽花の下には、死体が埋められている。煉骨がそう教えても、蛇骨はいまいちピンときていないようだった。
「なんで、赤くなんのさ。血を吸うからか?」
「多分、違う。俺の仮説だが、死体が土に返って、土の成分が変わったことで、そこに根を張った紫陽花の色に影響されるんだと思う」
「ふうん?」
相槌を打ったものの、蛇骨はやはり分かっていないようだった。
「……糞を土に混ぜて、肥料代わりにするだろ。そうすりゃ土が変わって、他の土よりよく育った野菜が取れる。それと同じだ」
「あー。なるほどな」
ようやく理解したらしい蛇骨が、うんうんと頷く。煉骨は長々と説明したわりに「俗説だがな」と断りを入れた。
「じゃあさ」
蛇骨は気だるそうに腕を持ち上げて、庭の方を指さした。
「あいつの下には、死体があんの?」
指差す先には、赤々とした見事な紫陽花が咲いていた。蛇骨と煉骨は、開け放した縁側の奥の部屋で、紫陽花を眺めながら話していた。
「さあな」
煉骨がそう答えたきり、沈黙が落ちる。餓鬼の頃であれば、じゃあ掘り返してみようと言う気力があったかもしれない。しかし、煉骨も蛇骨も餓鬼ではないし、そのうえ今は情事後の心地よい疲れの中にいた。湿った畳に手足を投げ出して、退屈そうに二人で紫陽花を眺める。
「なんかよう、やった後に死体がどうのこうの話して平気なのって、俺たち人殺しみたいだな」
「実際、人殺しだろ」
「そうだけどよ」
そうしているうちに、小雨が降り始めた。雨音にかき消されるようにして、二人のお喋りはそこで止まった。