おれは、とてもいい気分になっていた。何故かというと、可愛い女の子がおれのやんごとなきものを咥えているからである。仰向けに寝転んだ脚の間で、小さな頭が動いているのが見える。ややウェーブのかかった短い黒髪を揺らして、その女の子は健気に奉仕を続けていた。おれは、気持ちいいのと嬉しいのといじらしいのとで胸がいっぱいになりながら、その女の子の顔を一目見ようと、小さな頭に手を伸ばした。やや湿った頭皮に指が触れる。そのまま髪をかき上げてやろうとした瞬間、すぐ耳元で低い声が囁いた。
「__毒島さん」
おれの指先がぴたりと止まる。次いで、おれの全身がふっと宙に浮かび上がるような感覚がした。背中に氷水を注ぎ込まれたかのように体が冷えて、その瞬間におれの意識は一気に覚醒へと駆け上っていた。
美空が、おれの顔を覗き込んでいる。それが目を開けて最初に見た景色だった。
さっきまでの出来事が全て夢の中のことであるのに気付くのは、そう難しいことではなかった。おれはハエでも払うように美空を退かすと、ベッドから上体を起こした。つい自分の下腹部を確認したが、幸運なことにそこは静まりかえっていた。おれは髪をかき上げながら美空に言った。
「何の用だ、おめえ__」
「用はありませんが、ひどくうなされていたので」
それはうなされてたんじゃなく、喘いでたんだろうよ。そう言いたいのをぐっと堪えて、おれはため息をつく。時計を見ると、やっと夜明けを迎えたくらいの時間だった。
「随分、早起きなんだな」
「わたしもよくない夢を見ましてね。飛び起きてしまいました」
「へえ__」
相槌をうちながらも、おれはさっきまで見ていた夢のことを思い出していた。あの囁かれた瞬間__おれは、股にいた女の子の顔が美空のものへ変わるのを見た。外部刺激によって夢が変化したというただそれだけのことなのだが、あまりに気味が悪い光景である。
「どんな夢だったんだ」
別に興味は無かったが、機械的にそう尋ねた。すると、美空は赤い唇を吊り上げて微笑した。
「毒島さんが出てきました」
そう言うと、美空は立ち上がりベッドを後にする。二度寝するわけではないらしい。どこへ行くのかと問うとこう答えた。
「寝汗をかいたので、シャワーを浴びてきます」
確かに、美空のうなじはうっすらと汗ばんでいた。バスルームの扉が閉じる。あの夢の名残りは、もうすっかり俺の頭から消え失せていた。