「やい、美空」
突然そう声をかけられても、美空は驚かなかった。その声の持ち主が毒島であることも、その毒島が背後にいたことにも、彼はずっと前から気がついていたのだ。そして毒島の方もそれを分かっていて声をかけたのだろう。
「お久しぶりですね、毒島さん」
「お前、いつだったか女の格好をしていただろう」
「……ああ、ひと月前のことですかね」
その頃、美空はとある仕事のために女装をしていた。彼にとってはよくあることだった。特別驚くこともなく、微笑を浮かべて返事をした美空だったが、毒島の方は何故か妙にニヤニヤとしていた。
「まさかとは思うが、お前、俺に気があるんじゃないのか」
「……いいえ?」
「断っておくけどな、お前も知っての通り、この毒島獣太さんは可愛い女の子しか抱かねえんだ」
「知っていますよ」
「だからな、美空。お前がいくらドリルで股に穴を開けたって、俺のやんごとなきものをお前にぶち込んではやらねえからな」
毒島は、ただそれだけを伝えたかったらしい。そう言い終わると「ちゃんと覚えておけよ」と付け加えてその場から立ち去った。取り残された美空は、やはりいつも通りの微笑を浮かべながらも、その顔に僅かな困惑を滲ませていた。