「めでたいじゃねえか」と鳳介は言った。「めでたいだろ。仲良しになれたんだから」と。
「まあ、男同士で大人しく乳繰り合ってるなら構わねえよ」と毒島は言った。「ただし、おれの目につかないところでやれよ」と、あの整った顔を迷惑そうに歪めて付け加えた。
「おぬし、あのようなむっつりした男が好みだったのか」と玄斎は言った。「どうりでわしに靡かないものだ」と、いつものように飄々とした態度で言っていた。
以上が、美空がとあるニュースを教えた後の各々の反応である。そのニュースというのは「文成さんとお付き合いしてるんです」というものだ。勿論、ちゃんとした事実である。美空からすると、彼らの驚いた顔が少しでも見れるのではないかと期待して(特に鳳介に対し)教えたのだが、意外にもその反応はいつも通りという風であった。
もしかしたら、この事実を大ニュースだと思っていたのは自分だけだったのかもしれない。美空はベッドの中で天井を見つめながらそう考える。それならば、世間というものは美空が思うよりも「普通」だとか「常識」などに囚われていないのだろう。いやしかし、ああも珍妙な彼らを「世間」として扱うのはやはり無理があるとも考え直す。そんな風に自問自答しながら、美空は声を立てずにくすくすと毛布の下で笑った。
冷えたシーツと毛布との間で、美空は脚をゆるりと伸ばす。すると、不意に足先が温かいものに触れた。隣で眠る、文成の体だろう。厚い皮膚越しに、みっしりと詰まった肉が感じられる。鍛え上げられた彼の体は、まるで革細工のような硬さと厚みを肌が持っている。美空はより脚を伸ばすと、文成の脛のあたりに自身の足の甲をぺたりと押しつけた。
「……どうした」
闇の中で文成が掠れた声で言う。美空に背を向けたまま、毛布の山越しに問いかけていた。
「足が冷えたので」
美空がそう答えると、文成は何も言わず、毛布の中で巨体を縮こませた。そして、美空の足先が、文成の分厚い手にそろりと包まれる。文成は美空よりも体温が高い。美空の白い足が、手指の皮膚越しにじんわりと温まっていくのが分かった。
「ありがとうございます」
美空が囁くようにそう言うと、文成からは呻き声のような返事が寄越された。おそらく、何か意味のある言葉を返してくれたのだろうが、美空がそれを聞き取ることはなかった。もしかしたら文成の方も、先ほど美空が告げたお礼の言葉がよく聞こえなかったのかもしれない。掠れた声が毛布に遮られて「おやすみなさい」と聞こえた可能性もあるし、もしくは全く別の言葉に思われたのかもしれない。どっちにしても、美空にとっては特に重要なことではなかった。文成の手が、未だに美空の足先を包み込んでくれているのだから。
美空は薄闇の中で目を閉じたまま、もしかしたら僕らの「お付き合い」も、鳳介らにとっては同じくらいどちらでもいいことなのかもしれないとぼんやり考えていた。