グランヴェル城の上で輪になって飛んでいる最中、ムルが列を乱して城へ下りようとした時、開催式の準備をした人間たちはともかく、他の魔法使いたちは皆いつものことだと平然とした気持ちでいただろう。けれど、ムルが降り立った先が賢者であるのを見た瞬間、ミスラは誰かが息を呑む気配を感じた。そして自分自身も、一瞬にして心がひどくざわめいたのだった。
(この21人の輪の中に、何故賢者を加えようという発想に至らなかったのだろう)
おそらく、ムル以外の全員が同時に思っているだろうことを自分も頭に浮かべながら、ミスラはムルに続いて賢者の元へ降り立った。賢者を空へ誘うと、ついさっきまで誇らしげな顔で万歳をしていたくせに、突然遠慮をし始める。5人がかりで誘って、ようやく賢者の方から魔法使いへ手を伸ばした。
アーサーに抱き上げられるようにして輪に加わる賢者の姿に、ミスラは言いようのない焦燥感を抱いた。こんな光景では、まるで賢者に一番近く、一番好かれているのがアーサーのようではないか。自分の感情に忠実に生きるのが常であるミスラは、アーサーに向かって声を張り上げた。
「賢者様をこっちに寄越してください。今度は俺が箒に乗せます」
その言葉に、アーサーの隣にいたオズが肩越しに振り返って睨みつけるのをミスラは見た。しかし、北の魔法使いミスラがそれで怖気付くわけがない。
「何故だ?」
「みんなの賢者様だからだよ!」
「そうですね!ひとり一回ずつ賢者様を乗せて飛びましょう!」
アーサーの質問に、何故かミスラではなくムルが答え、そしてルチルが同調する。ミスラがどう訂正するべきか悩んでいると、いつのまにか話が決まったようで、アーサーから反時計回りに賢者が渡されていくことになった。
アーサーからオズへと手渡される賢者を見つめながら、ミスラはため息をつく。けれど、自分以外の誰か一人の手に渡り続けているよりはいいかと、大人しく自分の番を待つことにした。風に乗って届く賢者の髪の香りを嗅ぎながら、まるで焦らされているみたいだと感じたのは、決してミスラ一人だけではないのだろう。