とっ散らかったベッドの上で、文成は目を覚ました。彼を覚醒させたのは、目を灼きそうなほどに強い陽射しだった。
文成は呻きながら身を起こした。ブラインドの隙間から射し込む光が、シーツの上に縞模様を作っている。よく見ると、外からの陽射しは僅かに緋色を帯びていた。夕焼けか、と思いそうになって、しかし肌にまとわりつく空気の温度や匂いから、今は早朝であると文成は確信した。気怠さに痺れた体をよじり時計を確認すると、彼の予想通り、午前五時半を指していた。
強すぎる陽射しに顔をしかめ、目を逸らした先には隣で眠る美空の姿があった。シーツよりも白い、輝くような裸体が、水のように横たわっている。こちらに背を向けているせいで、その表情は窺い知れない。花のように広がった黒い髪だけが、彼の視線を受け止めている。風を眺めるようにして、文成はその裸体をしばし見つめていた。
それからどれくらい経ったのか。窓の外の景色が徐々に変わりつつあった。空が、燃えるように紅くなっている。ブラインドの隙間からでも、空の様子はよく分かった。
天に横たわる青く透き通った空が、下から這い上がる緋色の光に押し上げられつつあった。雲の底が、薄桃色に染められている。朝焼けであった。
文成は、初めて見るもののようにそれを眺めた。このようなものが存在しているのが、信じられないような気がした。少なくとも、自分の世界には無かったものだった。
文成の目が、朝焼けから美空へと移る。
「おい……」
揺さぶりながら声をかけると、そう手間をかけずに彼は目を覚ました。まだ眠りの膜に包まれた美空の目を見て、文成は言った。
「見ろよ」
顎をしゃくった方へ、美空は目を向けた。一瞬の間を置いて、彼は「へえ」と声を上げた。
「綺麗ですね」
何の感情も読み取れない声だった。花を見て「花ですね」と言ったような、その花が百合であってもすみれであっても彼には何の関係も無いという風であった。美空が文成の方を振り向いた。いつも通りの微笑が、そこにあった。
「ありがとうございます」
「……何がだ?」
「これを見せるために、僕を起こしてくれたんでしょう?」
笑う美空のまつ毛に、朝焼けがとろりと溶けている。彼のあらゆる輪郭が赤く照らされていた。
文成は答えなかった。もっと別のことを、自分は美空に求めていたように思えた。朝焼けを前にして、何かを共有できるような気がしたのだ。しかしそれがなんであるか分からないまま、緋の滲む空を美空越しに眺めていた。