毒美(サイコダイバーシリーズ)

空海の木乃伊を巡るあの騒動の末に知り合った彼らのことを、美空は時々思い出しては幸福な記憶に浸るように懐かしんでいた。
幸福と呼ぶには、穏やかとは言えない物事ばかりであったし、関わった者たちは何かを得るより失った人間の方が多いだろう。けれど、美空にとっては、どこかくすくすと笑い出したくなるようなものを抱かせる男たちだった。
文成仙吉に、九門鳳介、それと、毒島獣太。
破天荒な男たちだった。巡り合ったことのない種類の人間だ、と思った。抗いようのない形で自分が惹かれていくのを感じた。
しかしそれでいて、自分と彼らの間には大きな隔たりがある、とも美空は思う。毒島獣太を例に挙げてみたら分かりやすいだろう。極端な例えになるが、おそらく彼の葬式に自分は参列できないだろうし、彼の人生に必要だった人間としてカウントされることはない。
美空は、毒島という男について強く思い出そうとする。そして、彼が死んだら自分は悲しむだろうか、と考えた。
多分、悲しむだろう。程度に差はあれど、喪われて欲しくなかった、と思うはずだ。
しかしそれでいて、彼の死をきっかけに自分が大きく変貌するわけがないという確信もある。
多分、自分の中での彼らは、燭台に灯った火のようなものだ。数百の燭台が美空の中にあり、火を灯してそこにある。彼らが自分の知らぬどこかで、ひっそり息絶えた時、多分そのうちの燭台が一つが二つ、灯りを消すのだ。
それで世界が暗闇に閉ざされるわけでもなく、何の不都合も無いのだが、おそらく自分はその灯りの消えた燭台に気づいては、火を新しく点けることもせずそこにあった火をなつかしむのだろう。
美空はひっそりと、誰に打ち明けるわけでもなく一人でそう考えていた。