倫理の不在(※R18)

※晶くんと恋人同士だと思い込んでるミと、思い上がってはいけないと思っている晶くんです
※♡喘ぎあります

ミスラは愛情表現が独特だ。
賢者とミスラが添い寝を始めて、数ヶ月が経った。その間、賢者が何度も思っていることがこれである。
ミスラはパーソナルスペースが非常に狭いのだろうということは、知り合ったばかりの賢者でも予想ができた。グランヴェル城でのパーティで初めて顔を合わせた時に、不意に顔を近づけて匂いを嗅いできたのが、賢者の中で今でも印象に残っている。他者に物理的に近づくこと、触れ合うことを厭わない性質なのだろうとは思った。
けれど、ここまでスキンシップが激しい人だとは思ってもいなかった。たった今、ベッドの中でミスラに抱きしめられながら、賢者は後悔にも似た気持ちでそっと息をつく。
ミスラの腕に強く抱き締められているために、賢者の鼻先がミスラの黒いシャツに押し当てられる。皺の寄ったそのシャツ越しに、ミスラの甘いようで苦い体臭がする。その匂いだけで、賢者は頭がクラクラとしてしまう。霧状の甘い毒のように、肺がミスラの匂いでいっぱいになって、体の内側から甘く爛れていくような、恍惚としてしまいそうな気持ちよさがあった。
このままだと頭がおかしくなってしまいそうで、つい賢者はミスラの腕から逃げるように身をよじってしまう。けれど、ミスラの腕の力は強く、そこから逃げることは叶わない。
全身を包むミスラの体温も、抱き寄せる力の強さも、賢者には気持ちよくて仕方がなかった。この腕の中にいるだけで、手足の先からとろとろに溶けて、うっとりとしてしまいそうになる。頭が痺れて、何も考えられなくなって、気持ちがぼんやりとしていくのに、その反対に体の感覚は奇妙に鋭敏になっていく。ミスラの吐息や、僅かに濃くなった汗の匂いや、ゆるやかに肌を撫でる指先の感触を、賢者の肌は敏感に感じ取ってしまう。
自身の下腹部に血が集まり始めたのを、賢者はうっすらと感じ取った。これが本格的に形を持ち始める前に、ミスラに寝付いて欲しいと賢者は切に願った。しかし賢者の願いとは反対に、ミスラに睡魔が訪れる様子は無いらしい。その証拠に、ミスラは賢者を抱え直すと、不意に小さな額へ顔を寄せた。

「ひゃっ!」

柔い感触と一緒に、ちう、と可愛らしい音が額で鳴った。その音だけで、賢者は何をされたのか理解してしまう。ミスラと同衾するようになって、もう何十回も繰り返されてきた行為だったからだ。
ミスラは愛情表現が独特だ、と賢者が主張する理由の一つがこれである。ミスラはあまりにも軽率に、たびたび賢者にキスをする。それはバードキスのような軽い物であったけれど、日常的にキスを交わす習慣の無い世界から来た賢者にとっては、あまりにも慣れないものだった。しかしキスであればまだ良い方で、時には舌で顔中を舐め回されることさえある。その間、賢者はじっと黙ってそれを受け止めなければならない。抵抗したこともあるが、ミスラが「嬉しくないんですか」としょげたような顔をしてみせたので、それからは突っぱねる気力を賢者は失くしてしまった。
嬉しいのは確かである。けれど、おそらくミスラにとっての「嬉しい」とは違うものを賢者は感じ取っている。子猫が鼻を擦り付け合うような、無邪気なじゃれあいとしてミスラは行っているのだろう。しかしこれをされて賢者が感じるのは、もっと本能的な、いわゆる性的興奮だった。その差を実感するたびに、賢者は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。まるで小さな子供を騙しているような気持ちにさえなるのだ。賢者がミスラのこうした身体的コミュニケーションから逃れたいと思うのは、自分の性的欲求への嫌悪も原因だった。
そんな賢者の気持ちも知らず、未だに啄むようなキスを続けるミスラは、クスクスと笑いながら囁く。既にミスラの唇は、賢者の額以外にも、鼻筋や目元、唇の横にまで触れていた。

「うぶですねえ。たかがキスくらいで」

無邪気な声だった。けれど、それが余計に刃のように鋭く賢者の胸を裂いた。真っ赤に染まっていた賢者の顔から、一気に熱が引いていく。
そうだ、ミスラにとってはこの程度のキスは「たかが」と表現できるほどなのである。きっと今までミスラは、賢者以外の、例えば美しい容姿をした豊満な女性なんかにもしたことがあるのだろう。それなのに、親愛以上の意味を含まない行為にいちいち舞い上がっている賢者の姿は、ひどく滑稽に見えているはずだ。
まるで美しい物をうっとりと眺めている最中に、突然鏡で醜い自身の姿を突きつけられたような、そんな恐怖が賢者を襲う。恥ずかしくなって、ミスラの腕の中で縮こまりながら、賢者はボソボソと声を漏らした。

「すみません……」
「別に謝らなくていいですよ」

それよりまた顔をあげてください、キスがしにくいです、と言ってミスラは鼻先を賢者の前髪越しの額に擦り付けた。高い鼻と吐息が、微風のように前髪を撫でる。いつもならくすぐったさに笑ってしまうだろうに、今だけは素直に受け入れる気持ちが失せていた。拗ねる子供のように、妙な反抗心から賢者は顔を逸らした。窮屈な腕の中で必死に体を捻って、ミスラから遠ざかろうとする。しかし賢者の予想に反して、返ってきたのは無邪気な笑い声だった。

「あはは。鬼ごっこですか?いいですよ。してあげます」

膝を抱えて縮こまった賢者の上へ、ミスラが包み込むように覆い被さる。視界が一気に暗くなり、反射的に「ひゃあ」と賢者が声を上げた。全身がミスラに包まれて、さっき以上に閉塞的な感覚に囚われる。
汗をまとった体臭が濃く感じられて、賢者は胸が高鳴るのを感じた。そんな自分が浅ましくて、隠すように自分の体を腕で抱く。ミスラはそれに構わず、まるで鼻先で土を掘る犬のように、賢者の側頭部にぐりぐりと鼻先を擦り付けた。

「ほら、捕まえましたよ。俺の勝ちです」

耳元で囁かれて、賢者の産毛がぞわりと逆立つ。耳の中に反響するためか、普段より低く感じられるその声は、ひどく色っぽく聞こえた。
それでも強情に縮こまる賢者に、ミスラは小さく息をついた。それを聞いて、ついに呆れられてしまったのかと、賢者は悲しいようでほっとするような気持ちになった。いつだって、嫌われてしまうのを恐れている時が一番怖い。嫌われてしまった後は、もうこれ以上悪い想像をしなくて済むので、むしろ心が軽くなる。安堵にも似た悲しみに思考を奪われていた賢者は、不意に耳元で鳴った水音にすぐ反応できなかった。ぴちゃり、と音が鳴った後、燃えるような熱が賢者の耳に押し当てられる。ナメクジを思わせる、粘液をまとった柔らかいもの。それが賢者の耳元を這う。一瞬にして自身のモノが昂るのを、賢者は抑えられなかった。

「あ、ふぁぁ……」

ぢゅる、ちゅ、ぷちゅ、と音を立てて、ミスラの舌が這い回る。耳の穴の奥から入り口まで、触手のような舌を出し入れされる。その気持ちよさに、賢者の手足から力が抜ける。口を閉じることも出来なくなって、だらしなく開いた唇から、いやらしい声が漏れる。
火照った賢者の体に、不意に冷えたものが差し込まれる。それは体温の低いミスラの腕だった。その腕で、うずくまっていた賢者の体が、結び目をほどくように広げられる。
ちゅぱ、と音を立てて耳が解放される。唾液でびしょびしょになった耳は、空気に触れると奇妙なほど冷たく感じられた。熱を帯びた体との差に、賢者は体がチグハグになっていくように思えた。
くったりとしている賢者の体を、ミスラが抱き寄せて、パジャマ越しに密着する。布を隔てたその刺激さえ、賢者に淡い快感を与えた。片手で顎を包むように掴まれた賢者は、久しぶりにミスラと向かい合った。
白い肌と、色っぽい垂れ目。恐ろしいほどに整った鼻筋と唇。ぼんやりとした表情。普段と同じ顔であるはずなのに、どこかいつもと違う印象があった。グリーンの瞳から注がれる視線が、賢者の顔中を這い回る。まるで、刷毛で顔を撫でられているような、ゾクゾクとした感覚が賢者を襲う。
そこでやっと、賢者は自分のそそり立ったモノがミスラに密着していることに気がついた。慌てて腰を引こうとするも、自身の下腹部に押し当てられている、別の固いモノの存在に気がつく。
まさか、と思った。ミスラにそのような欲求があることも、そういった欲求が自分に向けられることも想像していなかった賢者は、頭に浮かんだ仮定を振り払おうとする。けれど、ミスラが腰を動かしてそれを擦り付けられると、その仮定は確信に近づいてしまった。
そんなはずがない。ミスラがそんなことを、自分と同じ気持ちでいるなんて、そんなはずがないのだ。もしそうだとしたら、先程のキスも、耳を舐めた舌も、全て意味が変わってしまう。
賢者の頭は混乱し切っていた。目の前のミスラから目を逸らしたいのに、顔を固定されているせいでそれすらもできない。じっと無言で賢者を見つめ続けていたミスラは、不意に口を開いた。さっきまで、賢者の耳を舐め回していた唇や舌が、賢者の目の前に晒される。聞こえた声は独り言のような響きを持っていて、だからこそミスラの興奮がたっぷりと含まれていた。

「やらしい顔」

賢者の顔が、一気に赤くなる。「恥ずかしい」という感情で頭が埋め尽くされて、視界が潤む。何も言葉を返せずにいる賢者に、ミスラは気を悪くすることもなく「暑いですね」と言って毛布を脚で跳ね除けた。
毛布が床に落ちるが、二人ともそれに気を留めることはなかった。二人の下半身が、久しぶりに外気に晒される。その冷たさが心地よかった。
賢者の視界に入ったミスラの下半身は、スラックス越しでも分かるほどに確かに勃起していた。その光景に思わず見入っていた賢者は、ミスラの手が自身のパジャマを掴んでいることにすぐ気がつけなかった。ミスラが下着ごとズボンを下ろそうとしたところで、気が付いた賢者は慌ててミスラの手を引き止める。一瞬、外に晒されかけた自身の性器がより熱を帯びるのを感じながら、賢者は残った理性でミスラの手を押さえつけた。

「や、やめてください、ミスラ!」
「どうして」

対して、ミスラはひどく不思議そうな顔をしていた。今まさに下半身を昂らせている男がする表情には思えなかった。

「あなたも、俺と同じ気持ちなんでしょう?」

まるで夕飯のメニューを聞くような声色で、ミスラが尋ねる。賢者は下半身がきゅうと疼くのを感じた。性欲を好きなだけぶつけてもいいのだと、許されたような気持ちだった。
その一方で、深い絶望に似た気持ちもあった。ただセックスをしたくなったから、それだけの理由で、ミスラはこんなにも容易く一線を越えようとする。二人でベッドに潜り込んで、くすぐり合ったり、囁き合ったりした日々が、ひどく遠い場所へ置いていかれたような気持ちだった。その思い出を穢したくなくて、賢者は必死でかぶりを振った。

「いや、いやです……」

ミスラはやはり納得できていない顔をした。それでも、賢者の意思を尊重したらしい。素直にズボンから手を離す。けれど、賢者がそれに安堵する暇は無かった。

「じゃあ、俺から先に脱ぎますね」
「えっ」

ミスラの長い指が、彼のベルトにかかる。普通に外すことさえ面倒くさいのか、壊すようにしてベルトを剥ぎ取った。下着ごと下ろされて、跳ねるように外へ飛び出したそれに、賢者の視線が吸い寄せられる。ミスラが足首の辺りで絡まったスラックスを脱いでいる時も、賢者の視線はそれに釘付けになっていた。
大きくて、長くて、ふとい。それだけが頭にはっきりと浮かんで、徐々に細部まで認識できるだけの余裕が生まれ始める。
その先端は、ミスラのものとは思えないほどに赤黒くグロテスクな見た目をしていた。表面にボコボコと浮き上がった血管も、その印象を助長させる。暴力的なまでに膨らんだ幹の根本には、それ以上にぱんぱんに張った陰嚢があった。付け根には髪色よりやや濃い色をした下生えがあり、引き締まった腹のへその下まで生えていて、ひどくいやらしかった。
あまりに猛々しく勃起したペニスに、賢者は思わず見入ってしまった。こんな自分を前にして、ミスラがここまで昂ったのかと思うと堪らなかった。ミスラがため息のようにこぼした言葉さえ、耳に入らない状態だった。

「あなたって、よく分かりません。初心なのかと思えば、そういう顔もするんですから……」

ミスラの腕が賢者の背に回り、そっと抱き寄せる。我に帰った賢者は一瞬だけ体をこわばらせたものの、鼻先を掠めた濃い雄の匂いに、一瞬で体を弛緩させてしまった。ぎゅうっと抱き寄せられ、賢者の鼻がミスラの鎖骨に埋まる。白い肌にうっすらと浮かんだ汗が、賢者の唇に触れた。
賢者の手に、ミスラの指先がそっと触れる。いつもより体温の高いそれに、やわらかく包み込まれて、どこかへいざなわれる。視界全てがミスラの肌で覆われている賢者は、自身の手がどこへ連れていかれるのか全く分からない。ようやく手のひらに当たったソレは、触れた瞬間にぴくりと小さく跳ねた。それだけで、賢者はそれの正体を男として察してしまった。

「触って……」

耳に吹き込まれる、掠れた囁き声。それは懇願というより、幼児に教え込むような響きを持っていた。賢者は抗えずに、ほとんど無意識のうちに手の中のものを握り込んだ。賢者の手を跳ね返すように、どくどくと脈動しているのが分かる。ミスラとは清い関係でいたい、という思いは既に消えていた。ただ今は、ミスラの男としての欲望を発散させてあげたいと思った。
何も考えられないまま、賢者は前後に激しく扱き始めた。動くたびに、ペニスが手の中でビクビクと震える。きっとこの中で血液が激しく行き来しているのだろうと分かる。すぐに先走りが溢れ、賢者の手を濡らす。ぬめりを帯びたそれは、賢者の指先から手のひらまで、余すことなくべったりと張り付いた。すべりの良くなった手が、より早くペニスを扱いていく。
耳元で、ミスラの低い吐息が吐き出される。どんどん雄の匂いが濃くなっていくのが、賢者には堪らなかった。
快感を与えているのは自分の方なのに、まるでミスラに犯されているみたいだと思った。手のひらから、ミスラの興奮や性欲が、ダイレクトに伝わってくる。「陵辱」という言葉が当てはまりそうだとさえ思った。
賢者の着ているパジャマは、興奮から滲み出た汗でびっしょりと濡れて、薄い布地を背中に貼り付けていた。ミスラの体との境目で、その布地がくしゃくしゃになっていく。
パジャマ越しに賢者の背中に触れていた手が、不意に力強く賢者の肩を掴んだ。縋るように掴むその感触に、絶頂が近いのだと賢者は察した。ミスラの手が、賢者の手に重ねられる。そのまま、賢者の手ごとペニスを握りしめた。

「あっ……」

賢者が声を上げても、ミスラは手を解放しなかった。賢者の手ごと、激しく自身のペニスを扱き始める。ミスラの手に強く押さえつけられて、よりペニスに密着させられた賢者は、あまりの興奮にクラクラとした。汗ばんだミスラの手は、今にも握り潰さんばかりに賢者の手を圧迫している。その力強さが、ミスラの感じている興奮を示しているような気がした。
くちくちという粘り気のある音が大きくなる。無意識のうちに、賢者は自身の腰をミスラの体へ擦り付けていた。いつもの自慰とそう変わらない行為だというのに、強烈な快感が腰から上ってくるのが分かった。目をぎゅっと閉じて、目の前のミスラにひたすらに体を預ける。
ミスラの体が強張った。それだけで、ミスラが絶頂を迎えるだろうことが賢者には分かった。ミスラが息を詰める気配の後、勢いよく精液が吐き出される。手の中で、限界まで膨らんだペニスが強く跳ねる。賢者もその直後に、絶頂を迎えた。直接的な刺激は無かったが、ミスラが目の前で果てたという事実だけで気をやるには充分だった。

「あっ、ああぁ、ぁ……」

賢者の頭が真っ白になる。ぼんやりとして、細部の感覚がなくなって、手足が溶け出していくようだった。半分気絶しているような意識の中で、鼻先に届く生臭い匂いだけがひどく鮮明だった。
一瞬の気絶の後に賢者が意識を取り戻すと、汗と先走りと精液の混じり合った匂いが、二人の間に充満していた。パジャマのズボンは、中で吐き出された精液のせいで脚に張り付いており、あまりにも不快だった。
自身の体を見下ろすと、パジャマの腹の部分にミスラの吐き出した精液が飛び散っていた。既に温度を失ったそれは、よほど濃いものだったのか、ほとんどゼリー状のような半固形のものまであった。賢者は反射的に、それを指先で掬い取って口に含んだ。ぷるぷるとした食感は、舌の上で唾液と混ざってすぐに溶けていく。ぼんやりとした苦味を残して飲み干されて、しょっぱい匂いが鼻から抜けていった。そこまでしてようやく、賢者はミスラから注がれる視線に気がついた。
ミスラと視線が交わる。射精後だからか、いつもより気怠げに細められた目が、じっとりとこちらを見つめている。
賢者は口に咥えたままだった指を慌てて抜き取った。

「あ、ちが、これは……」

釈明しようとした声は、すぐに止まった。ミスラが一気に距離を詰めてきたからだ。整った顔が鼻先に迫ってきたかと思うと、息つく間もなく唇を奪われる。

「んっ!?んぅ……っ」

ふにゅ、と柔らかいものが唇に押しつけられる。賢者は反射的に目を瞑った。マシュマロ同士を擦り合わせるみたいに、柔らかいものに吸いつかれて、押しつぶされて、合間に生温かい吐息で唇を湿らされる。
扱きあって、射精して、キスまでして、これじゃあ恋人同士みたいだと賢者は思った。そんなはずがないのに、賢者の頭はそう錯覚してしまいそうで、愛されているという思い込みが口付けの心地よさをより高めていく。
閉じた唇の境目を、熱い舌先でそろりとなぞられる。請われるままに口を薄く開けた賢者は、押し込まれたミスラの舌で口の中を陵辱された。たっぷりと唾液をまとった分厚い舌が、賢者の舌と絡まり合って、舐め回していく。あらゆる場所に唾液をなすりつけられて、口の中がミスラの唾液の味でいっぱいになる。ミスラの精液と唾液が舌の上で混ざり合う。

「んっ……んちゅ、んふぅ……っ」

貪るようなキスを続けて、ようやく解放された時、二人の間にとろりとした唾液の糸が一瞬だけかかった。
くたりと弛緩した賢者の体を、ミスラが抱きしめ直す。そして、賢者のズボンを掴むと、呆気なくずり下ろした。キスの余韻に浸っていた賢者は、一瞬の間の後にようやくそれに気がついた。

「えっ……あっ!」

ふるん、と半勃ちになっているペニスが、ミスラの目の前に晒される。乾いた精液をあちこちにこびりつかせた下腹部の中で、ソレは一目で使い込んでいないと分かる色をしていた。ミスラの両目が、それをじいっと見つめる。
我に帰った賢者が、脚を抱えるようにして下半身をミスラの目から隠す。

「なんで、隠すんですか」

不満そうなミスラの声がしたかと思うと、賢者の太ももが長い指に掴まれる。そして、有無を言わせぬ力で脚を左右に開かれた。

「ひゃっ!?」

いつのまにか賢者は、シーツの上に仰向けに転がされ、脚を大きく開かされていた。身を起こしたミスラが、それを上からじっと眺める。ゆるく勃ち始めた性器に視線が注がれて、不自由な姿勢のまま賢者は必死にバタついて抵抗した。

「やだっ、やだ、ミスラっ……。見ないでください……」
「何が嫌なんです?気持ちよさそうにしてたくせに」

低く落ち着いているミスラの声は、賢者の羞恥心をより煽った。ミスラの前で、腰を擦り付けて自慰をして、射精までしたというのに、今更性器を見られることを恥ずかしがるなんて、ミスラからするとひどく滑稽だろう。

「俺に見られるのが嫌なんですか?」

ミスラは心底不思議そうに、理解できないという顔をしてそう言った。

「俺は、あなたに見られて興奮しましたよ。さっき脱いだ時も、あなたにされてる時も」
「それ、は……」

何でもない事のように明かされたミスラの気持ちに、賢者は思わず言葉に詰まった。あまりに無邪気に語られる好意に、ついたじろいでしまう。そしてそれ以上に、突きつけられた疑問に戸惑った。
ミスラが目の前で脱いでみせた時、賢者はひどく興奮して、劣情を煽られ、うっとりとミスラのモノを見つめてしまった。そしてそんな視線を受けたミスラは、彼が言う通り興奮したのだろう。
本当は賢者も、身体の恥部や、快楽に耽っている時の顔をミスラに見られて、恥ずかしいと思うのと同時に確かに興奮していたのだ。誰にも見せたことのないような場所を、ミスラが暴くように見ようとする強引さも、求められている証明のようで心地よかった。けれど、それに相反するような恐怖が賢者の中に存在していた。
はしたないところを見られて、もし、ミスラに失望でもされたら。浅ましく快感を貪る姿に、たった一瞬でも、下品だとか汚らしいとか、気持ち悪いと思われでもしたら、そう考えると賢者は逃げ出したくてたまらなかった。
結局のところ、賢者がここまでミスラの目に晒されるのを嫌がるのは、「ミスラに嫌われたくない」という気持ちが一番の理由だった。性器を見られることへの羞恥心や、ただの友人同士で性行為をすることへの抵抗感など些細な理由は多くあるが、ミスラに嫌われることが、何より賢者が避けたいことだった。
こちらをじっと見下ろす、無邪気なようでいて確かに性欲を伴った緑色の目に、賢者の口が自然と本心を吐露する。

「きらいに、ならないでください……」

賢者がようやく絞り出した答えは、ミスラからするとひどく唐突に思えただろう。途切れ途切れに、賢者はどうにかしてミスラに納得してもらおうと説明する。
キスをして、互いの性器を目にして、射精するところを見られてしまっても尚、「嫌われたくない」を理由にそれ以上の行為を拒む姿は、ひどく滑稽だろう。けれど、賢者は必死だった。手を繋いで、囁き合って、添い寝をしてようやく手にしたミスラとの関係が、一瞬で崩れてしまうことへの恐怖が、あまりにも大きかった。

「もし、ミスラが俺のきたないところとか、やらしいところを見て、きらいになったら、嫌なんです……。だから……」
「なに変なことを言ってるんですか」

贖罪のように切々と話す賢者の声は、笑えるほどにばっさりとミスラに切り捨てられた。え、と驚いてミスラを見返す。ミスラは賢者の脚を掴んでいた手を離し、シーツに手をついて賢者に近づいた。大きな背に覆い被さられて、視界が一気に暗くなる。鼻先まで迫ったミスラの顔に、賢者は反射的に目を瞑って顔を背けた。しかしミスラは気にも留めなかったようで、賢者の頬に鼻先を擦り寄せながら至近距離で囁いた。

「好きだから、こういうことをしてるんですよ。どうして嫌いになるんですか」

賢者の頬のうぶ毛を、ミスラの吐息が湿らせる。その官能的な刺激と、あまりにも純粋な言葉に、賢者は頭がクラクラとした。

「好き……、って……」
「そうですよ。あなたが好きなんです」

すきだから、したい。当たり前のように囁かれる、単純すぎる好意は、賢者には猛毒のように感じられた。嫌いになってほしくないという不安に、好きだから嫌いにならないと返すなんて、まるで子供の言い分だ。それでも賢者の不安を打ち砕くには充分で、ぐるぐると混乱する賢者の耳に、より混乱を招く言葉が吹き込まれた。

「あなたは俺の恋人なんですから、これくらいで嫌いになりませんよ」

こいびと。
耳を掠めたその言葉に、賢者は一瞬で意識を持っていかれた。
今、恋人と言っただろうか。
まさか、自分とミスラのことを指している?そんなはずがない。だって今まで、そんな関係になりたいという言葉を言われたことも言ったこともないのに、自分達が恋人なはずが無い。
そう反論する一方で、パズルのピースが組み合わさるように、賢者の中で何かが証明されようとしている。
独特だと思っていた愛情表現も、毎日のように行われるバードキスも、雪崩れ込むように始まったセックスも、恋人に行うものだとすれば、全てに納得がいく。人間の常識に疎いミスラだから、と奇妙な行動に理由を求めなかった賢者だったが、もし互いの関係性に思い違いが生じていたのだとしたら……。
思考の沼に陥りそうになっていた賢者は、ふいに与えられた快感に意識を取り戻した。見ると、ミスラの手が萎えかけていた賢者のペニスを包んでいた。制止しようとする前に、ミスラの手が動き出す。上下に扱くだけの単調な動きだったが、自分でするのとは全く違う、途方もない快感が賢者の身を走った。

「ぁっ、ああっ、はぁ……」

賢者のペニスは、すぐに硬さを取り戻した。身を焦がすような快感が、体の中心から迫り上がってくる。自身ではコントロールできない快感の波が、次々と賢者を襲う。さっきまで賢者の手で扱かれていたミスラも、同じような気持ちよさを味わっていたのだろうか、と思った瞬間に、賢者はより快感が高まっていくのが分かった。
ミスラに扱かれながら、賢者は全身の力が抜けていくのが分かった。強く扱かれるたびに、全身が溶けていって、腕や脚に満ちている血液までもが甘くとろけて、けれどミスラの手の中にある陰茎だけが、硬く反り返っていくような、奇妙な感覚だった。
賢者が脱力しているのを見て、ミスラは密着していた体を起こした。扱く手を止めないまま、賢者の膝裏を掴み持ち上げる。自然と尻をミスラの目の前に晒す姿勢になった。それを恥ずかしいと思う余裕さえ、今の賢者には無かった。全身の血液が体の中心に送られて、快感を得ることにしか集中できていない状態だった。
ミスラが身をかがめ、賢者の尻に顔を埋める。伸ばされた赤い舌が、後ろの穴の縁に触れた時、予想していなかった刺激に賢者は猫のように鳴いた。

「んひぃっ!?」

反射的に窄められたそこに、ミスラの舌がねじ込まれる。淡い吐息が一緒に注がれて、その温かさに体の強張りが一瞬で解かれる。
男同士の行為でそこを使うことは、賢者は知識としては知っていたが、まさかミスラにそこを愛撫されるとは思ってもいなかった。心の準備ができていなかった快感に、賢者の胸がざわつく。
たっぷりと舌に絡められた唾液が、縁や周囲にまぶされていく。火のように熱い舌先が、溝の一本一本をなぞるように舐める。背筋がぞわぞわとして、脱力した後ろの穴が僅かに口を開く。そこに舌先を押し込まれる。柔らかくぬめりを帯びた舌が、敏感な粘膜を内側から撫で回す。気持ちよかった。けれど、同時に耐え難い物足りなさもあった。入り口ばかりをくすぐるように愛でられて、もっと奥、舌では絶対に届かないような場所が疼き始める。その奥を掻き回してほしい。舌よりもずっと長く硬いもので、掻き回して押し込んで絶頂させて欲しい。それをねだる言葉を考えることすら今の賢者には難しかった。
長い愛撫によって先走りをたっぷりと溢れさせている賢者のペニスは、扱かれるたびにくちくちと音を立てるほどに濡れていた。快感の蓄積したそこは、今すぐにでも絶頂を迎えたいくらいだったが、なかなかその瞬間は来なかった。ミスラの手は、愛撫を始めた時よりも明らかに扱く速度が落ちていて、賢者をすぐにイかせないよう意識しているのだと分かった。ミスラの手で快感をコントロールされている自身に、賢者は言いようのない興奮を感じた。まるで、ミスラに体を委ねているような、全てが完全な支配下に置かれているような気さえした。
それでも、徐々にではあるが確かな快感が賢者の腹に蓄積されていた。逃れられない快感の波が、賢者を絶頂に押し寄せようとしている。

「あ、はぁ……、ミスラ、まって、まだ……っ」

賢者の声にミスラは耳を貸さなかった。むしろ、後ろの穴にぺっとりと唇を押し付けるようにして、唾液でベトベトになったそこに吸い付き始めた。ペニスに与えられる刺激とはまた違う気持ちよさに、電流が体の内側で弾ける。
自分の意思とは関係なく上り詰めていく体に、賢者は必死に快感から逃れようとした。けれど、そうするほどに賢者の体はむしろ敏感になり快感を拾っていく。体が自分の物でなくなっていく感覚が、薄暗い興奮を呼び覚ましていく。背筋からペニスに向かって、快感の波が勢いよく打ち寄せて、賢者はあっけなく射精を迎えた。

「……っ♡、ぁ♡、ひいぃぃぃ……っっっ♡♡♡」

視界が一気に白く染まり、びゅる、と音を立てて精液が溢れ出す。二度目なのもあって量の少ないそれが、賢者の腹の上に出された。痺れるような心地よさが、体の中心から全身に広がっていく。
射精が終わり、息を整えながら余韻に浸る賢者の下腹部を、ミスラの舌が這い回る。太ももの内側や脚の付け根などに付着した、一度目の射精でこびりついた精液を、舌先でこそげ落とすように舐めとっていく。猫同士の毛繕いのような、淡い心地よさがあった。
達成感にも似た疲れが賢者の全身を包んでいた。頭も体も麻痺したかのようで、ただミスラの舌先が細やかに踊る感触を受け入れるしかできない。賢者はぼんやりと霞がかかった頭で、絶頂の余韻に浸り続けた。
ふと、ミスラの愛撫が止んだ。身を起こし、ベッド上の賢者を静かに見下ろしている。一体どうしたのか、と賢者が問いかける前に、ミスラが口を開いた。

「見逃しました」
「……?え、何が……」
「あなたがイく時の顔」

ぼん、と賢者の顔が赤くなった。
確かに、二度目に賢者がイッた時のミスラは、下腹部に顔を埋めていたために賢者の表情を見れなかっただろう。
ミスラは賢者の背に手を添えると、力なく横たわっている上体を起こしてやった。賢者はそのまま持ち上げられ、ミスラの膝の上に乗せられる。至近距離でミスラと顔を寄せ合う格好になって、賢者はどこに視線をやればいいか困惑した。

「もう一回しましょうか」
「えっ……、ちょ、ちょっと待ってくださ……っ」

さすがに二発も出しておいて、これ以上できる自信が賢者には無かった。制止しようとしてふと下を見た際に、ミスラのモノを目にしてギョッとした。一度出したばかりだというのに、また勃ち上がっていたのだ。
再度目の前に晒されたそれに、賢者の下腹部が甘く疼いた。最初に目にした時は、雄の象徴のように大きいそれに圧倒されるように見惚れたが、今はそれとは違う感情があった。

(もしミスラのこれを、中に挿れたら)

そう考えて、賢者の中がきゅんと痺れる。舌で愛撫されて終わりだった後ろの穴が、より大きな刺激を求めてはくはくと口を開ける。賢者の視線が、ミスラのモノの太さや長さを推し量るように釘付けになる。舌とは桁違いの質量をしているだろうそれをねじ込まれる感覚を想像し、頭がじんわりと淡く痺れていく。
賢者のペニスを下から支えるようにして、ミスラの手が包み込む。思わず腰を引きそうになる賢者だったが、背中をもう片方の手で支えられている姿勢では、逃げようにも逃げられない。
ミスラの手が、陰嚢をゆっくりと揉み始める。ゆるやかな快感が、下半身から徐々に溢れていく。しかし賢者を堪らなくさせたのは、ペニスへの愛撫よりも、至近距離で見つめてくるミスラの視線の方だった。ミスラは無言のまま、愛撫をしながら賢者の顔をじっと見つめ続けている。賢者は恥ずかしさから、ミスラと目を合わせないように顔を伏せているものの、見られていることに変わりはない。愛撫の気持ちよさに、震えるまつげや歪む口元まで、ほんの少しの変化を全てミスラに見られているのかと思うと、恥ずかしくて逃げ出したかった。

「……ぁ、う、みない、で、くださ……、ひっ!」

懇願している途中で、賢者が短い悲鳴をあげる。ゆるやかな愛撫を続けていたミスラの手が、突然幹の部分を強く握ったのだ。勃ちあがりかけていたモノが、一瞬で縮みかける。しかし、ペニスの表面にまぶされている、先程の行為で出た先走りや精液を絡めながら上下に扱かれると、賢者のモノはまた硬さを取り戻し始めた。ぬちぬちという湿っぽい音がするようになり、賢者の呼吸も荒くなっていく。
下から上へ、駆け上がるような快感が何度も続く。賢者の体の中で揺蕩っていた気持ちよさが、ミスラの手でかき集められ、徐々に明確な形を持っていくような感覚だった。賢者は、もう二度も出したというのに、また発情し始めた自身の体を恥ずかしく思った。そしてそんな自身の姿をミスラに見られている事実も、その羞恥を加速させていく。
ミスラの愛撫は、さっきまでの行為と比べて、随分丹念なものになっていた。ただ扱くだけではなく、幹を握ったままカリ首のところを親指の腹でなぞったり、先端から滲み出た先走りを塗り広げたりしている。あまりに的確な奉仕に、賢者の体は確実に追い詰められていた。賢者の様子を間近で観察しているために、何をすれば気持ちいいのかをミスラが理解できているからこそなのだろう。賢者は一度目や二度目の射精よりも、早く絶頂を迎えるだろう気配を既に感じていた。
しかしその一方で、賢者の後ろの穴は物足りなさを感じていた。さっきまでと違い、未だに触れられてもいないそこは、物欲しそうにヒクヒクと口を開けている。ついさっき初めて愛撫されたばかりだというのに、もう性器として扱われる悦びを得たらしい。前ばかり愛撫される賢者は、後ろもミスラの手で暴かれたいと思ってしまった。賢者の視界に、ミスラの膨張したモノが映る。それを後ろにねじ込まれたら、どれほど気持ちいいだろうと考えて、気づけば賢者はミスラへ懇願していた。

「ッミスラ、お願い、挿れて……!挿れてください……ッ!」
「……はあ、無理ですよ。全然慣らしてないんですから」

俯いたままミスラにしがみついて必死に訴えたものの、返ってきたのは冷静な言葉だった。たしかにミスラの言う通り、一度も慣らしたことのない賢者の尻では、ミスラのモノを咥えることは難しいだろう。そういう知識に疎い賢者でさえ、内心うっすらと理解していた。けれど、どうしてもミスラのモノが欲しくてたまらなかった。
ミスラの体の一部を、自分の中に挿れて欲しかった。欲情した証であるそれを体内に入れて、ミスラの興奮のままに、中をかき回して突き上げて出し入れして、性欲をぶつけて欲しかった。ついさっきまで、ミスラに性欲を向けられることに戸惑っていたはずなのに、賢者の頭の中には、体の最奥までミスラに支配されたいという欲求が確かに存在していた。
気がつくと、賢者は羞恥を忘れてミスラの顔を見上げていた。久しぶりに目にしたミスラの顔はいつも通りの無表情で、けれど両目だけは、瞳孔の開き切った、凶暴な獣のような欲を孕んでいた。その目に射抜かれながら、賢者は我も忘れて懇願した。

「やだ……っ、挿れて……っ、中が、切なくて……、挿れてください……!」
「できませんよ。体が裂けてもいいんですか?」
「いいから……っ!ミスラの、欲しいです……。ミスラにめちゃくちゃにされて、中にいっぱい出されたいんです……っ、だから……」

賢者の視界が涙で滲む。声を上げれば上げるほど、後ろの切なさが増すような気がした。ミスラの表情が分からないほどに視界が歪んだ頃、気だるげなため息がすぐそばで零された。

「そのまま、俺に掴まっていて下さいね」

その言葉の直後、賢者の背中を支えていた手が、徐々に下へ降りていった。尻にまでたどり着いたその手は、長い指をそっと這わせながら、尻たぶを左右に割り広げた。柔い肉に触れるゴツゴツとした指に賢者がうっとりしていると、尻穴に指先が触れた。

「ふ、ぁ……」

後ろの穴に触れた指先は、そのままくるくると窄まりを撫で始めた。柔らかい指の腹が、穴の周辺の皺を撫でていく。それだけで尻穴がヒクついて、中の粘膜に冷えた空気がかすかに触れるのが心地よかった。
ついさっきミスラの唾液をまぶされたばかりのそこは、すぐに口を開けてミスラの指先を受け入れようとする。ふに、と入り口に強く指を押し当てられ、賢者の鼻から息が抜ける。賢者の体が弛緩する瞬間をミスラが待って、穴が広がった瞬間に、ぐにゅ、と指先が挿れられた。

「んあっ、ふぁあ……♡」

指一本分であれば、賢者の尻穴は易々と受け入れた。ゆっくりと奥に押し込まれる質量に、賢者ははくはくと喘ぐ。ペニスよりもずっと細いはずなのに、腸壁を撫でられるだけで形容し難い気持ちよさが体を襲う。排泄のためだけに作られた場所なのに、まるで性器のように快感を拾ってしまう。ゴツゴツとした指に粘膜を撫でられて、圧迫される。

「ん、ひぃっ……♡」
「なんだ、指だけでも気持ちよさそうですね」

そう言いながら、ミスラは中に指を入れたまま、指を曲げたり、壁を強く押し込んだ。それだけでどうしようもない気持ちよさが溢れていく。
驚いたことに、後ろを責め始めてから一度も触られていない賢者のペニスは、まるで愛撫されている途中のようにトロトロと先走りを垂らしていた。とろみを帯びたその液体は、会陰を伝って尻にまで垂れていき、まるで潤滑油のようにミスラの指が出し入れされるのをスムーズにする。
ぐちゅぐちゅと音を立てて、ミスラの指が中を前後する。ふいに、ミスラの指が中で止まったかと思うと、穴の縁に何かが引っかけられ、僅かに広げられた。空いた隙間から外気が入ってきて、熱く火照った粘膜はそれだけで快感に震えてしまう。

「んひっ……、ぁ、ああっ!」
「ほら、二本目ですよ」

ミスラの声と同時に、広げられた隙間から、ミスラの指がもう一本ねじ込まれた。一本だけの時とは違う圧迫感に、賢者の中がうごめく。これでもペニスよりずっと細いだろうに、二本入れられただけで、賢者の中はギチギチに満たされてしまった。中でミスラの指先が苦しげにもがくのがわかる。

「ちょっと……、もう少し、力抜いて……」
「あ、っむり、で……っ、ひぅうっ!」

ミスラの指を受け入れるだけで精一杯な賢者の体を、別の快感が襲った。ミスラのもう片方の手が、ずっと放置されていた賢者のペニスを握ったのだ。ぎゅうっとペニスを締め付けられ、賢者の中で切ない快感が弾けていく。そのまま上下に扱かれて、賢者の体は雄としての気持ちよさに全身がとろとろになっていった。
それを合図のようにして、後ろに入れられていた指も激しく動き始める。前への刺激によって、後ろの穴から力が抜けたのだろう。ぬぽぬぽと出し入れされて、尻から背中にかけて震えるような快感が身を貫く。気がつくと、賢者はカクカクと腰を振ってミスラの愛撫を受け止めていた。

「あっ、はぁっ♡ああっ、んあっ♡」
「あはは、犬みたいですね」

無邪気なミスラの声も聞こえないほどに、賢者は快感に没頭していた。前と後ろで、種類の違う気持ちよさに挟まれて、体がチグハグになっていく。無意識に動かしている腰の動きさえ、前と後ろのどちらの快感を得るために行なっているのか、賢者自身でさえ分からなかった。
板挟みにされた別々の快感は、賢者の意思を無視して体を絶頂へ導こうとする。全身がとろとろに蕩けていって、ミスラに全てを委ねることしかできない。涙で滲んだ賢者の視界に、バチバチと星が散っていく。

「可愛い顔ですね」

賢者の耳に、吐息混じりの声が吹き込まれる。その言葉の意味を理解する余力のないまま、賢者は耳を撫でる生温かい息にビクビクと体を震わせた。快感を受け止める以外のことができなくなった賢者は、汗と涙でぐちゃぐちゃになった顔を気にする余裕など無くなっていた。緩んだ口からは唾液が垂れて、焦点の合わない瞳はびくびくと白目を剥きかけて上を向いている。ペニスを激しく扱かれるたびに、ピンク色をした唇から舌を突き出して喘ぐ姿は、「魔法使いの賢者」として振る舞う普段の様子からは想像もできないほどに乱れていた。
限界まで上り詰めた快感が、いよいよ賢者の体を蕩けさせる。真っ白になった頭の中は、下半身を駆け上がる快感でいっぱいになっていた。

「あ♡あああっっ♡♡みすらっ、いくっ♡♡いっちゃううううッッ♡♡♡♡」
「いいですよ。イって下さい」

ぐ、と奥にまで長い指が押し込まれる。賢者の指であればきっと届かないような場所にまでねじ込まれて、心地よい電流がばちりと弾ける。囁かれる言葉のままに、賢者は呆気なく絶頂した。快感の大きさとは裏腹に、量の少ない半透明の精液が、尿道から射精される。「お漏らしみたいですねえ」とのんびりした声と共に尿道を塞ぐようにつつかれて、賢者は射精しながら腰を引くようにくねらせた。
絶頂を迎えても尚、あやすように後ろの穴で出し入れされる指を感じながら、賢者は意識がゆっくりと薄れていくのを感じた。白んでいく視界の中で一瞬だけ、こちらを溶けるような目で見つめるミスラの瞳が見えたような気がして、けれどそれを気にする余裕も無いまま、賢者は意識を飛ばしてしまった。

 

次に賢者が意識を取り戻したのは、顔に降りかかる温かい液体を受けてのことだった。まるで蒸気を受けたように、顔全体が一瞬で温められる。その次に、顔に降りかかった液体の重みを感じ取った。とろみを帯びたそれは、ゆっくりと時間をかけながら、賢者の鼻筋や頬や唇を伝っていく。寝起きのぼんやりとした意識のまま、賢者は鼻を犯す生臭い匂いに、その液体の正体を理解した。賢者がうめき声をあげると、頭上からミスラの声が降ってきた。

「そのまま、じっとしていて下さいね」

その言葉を半分も理解できないまま、賢者は全身に残る気だるさに身を任せて、ミスラの言う通りにする。どうやらベッドに寝かされているようで、全身を支えられている安心感が、より賢者の意識を覚醒から遠ざけた。
ふいに、顔に何かが押しつけられる。そのまま、顔を踊るように器用に這い回る感触に、それが指であることを賢者は察した。ミスラの指は、賢者の目元から頬へ、小鼻から鼻筋まで余すことなく撫でていき、顔に付着した液体を拭い取っていく。マッサージをされているような心地よさに身を任せていると、再度ミスラに声をかけられる。

「口、開けてください」

反射的に口を開けると、舌の上にぬちゅりと音を立ててミスラの指が押しつけられた。そのまま、とろみのある液体を舌全体へ塗りつけられる。指を引き抜かれて口を閉じた賢者は、舌の上でその液体をねぶった。生臭さを残しながら、わずかなしょっぱさを感じさせる味に、官能が呼び起こされる。
衣擦れの音の後に、ベッドのスプリングがわずかに軋む。寄り添うように隣にミスラが寝転んだのがわかった。耳たぶを吐息が掠めたかと思うと、低く甘い声で囁かれる。

「今度は、ちゃんと解してからやりましょう。あなたの中に出したいので」

囁かれた言葉に、賢者は朦朧としたまま頷いてみせた。
その直後に、今の返答では、恋人同士であるのを認めたようなものではと気がつく。けれど、賢者が感じるのは戸惑いよりも興奮の方が大きかった。
賢者が友人だと思ってミスラに接している間、ミスラはずっと恋人だと思い込み、性欲の混ざった目で見ていたのかと思うと、奇妙な形で承認欲求が満たされていくようだった。
何度も絶頂を重ね、疲弊した頭の中は、その思考を咎める声も現れない。ミスラの舌で耳をなぶられながら、賢者はこの歪な恋人関係に身を委ねることを選んだのだった。