毒美(サイコダイバーシリーズ)

 美空は少し前のことを思い出していた。
地面に置かれた部下の生首を、車で轢き潰した時のことである。敵の罠である可能性があったにせよ、美空は少しも躊躇せずにその生首に向かってアクセルを踏んだ。悲しみも傷つきもしなかった。
あの時、助手席に乗っていた文成の方が苦痛に耐えるような表情をしていたのを、美空はよく覚えている。あまりの痛みに呻き声を抑えられないような、そんな顔をしていた。思い出すだけで美空の唇に微笑が浮かぶ。先天的な無痛症である美空は、他者が苦痛に悶える姿を物語を読むように楽しむことができる。
文成がああならば、毒島もあのような顔をするのだろうか。笑みを崩さないまま、美空は考える。同じように非人道的な行為を美空がして見せたら、毒島もあの整った顔に苦痛を浮かべるのか。
美空の笑みがいっそう深くなる。その想像は、毒島の体に直接傷を作り、そこに火かき棒を突っ込むよりも甘美に思えた。