毒美(サイコダイバーシリーズ)

「紹介しますね。こちらが毒島獣太さんです」
美空の言葉を聞いて、関根はその白い手が指し示す先へ目を向ける。背の高い、驚くほどに顔の整った男がそこにいた。何故か妙にむっつりとした顔で関根を見ている。
「あんたのことは、よく美空から聞いてるよ」
「へえ」
関根の言葉に、毒島は長い指で前髪を僅かに乱しながら返事をした。
「たとえば?」
「有能な精神ダイバーなんだってな」
「そっちか」
毒島は、あからさまに顔を歪めた。拗ねた子供のような、幼さを感じさせる表情である。「そっち」という言葉に関根が不思議そうにしていると、美空が「ああ」と声を上げた。微笑を浮かべたまま、唇の片方だけをふっと吊り上げる。それだけで、子供を揶揄う大人のような、どこか悪戯っぽい表情に変わった。
「僕と毒島さんは”できて”いましてね」
「へえ……」
関根の口が、僅かに開いたままの形で止まる。しかしそれでも、この男の口元には表情らしい表情が浮かんでいないように見える。無意識のうちに漏れていたらしいその声も聞いて、ようやくこの男が驚いているのだろうと分かるくらいである。
「とすると、あれか。あんたらがいちゃついてるんじゃないかって思いながら、おれは仕事をしなくちゃならないのか」
関根が言う。今回、関根はこの二人と共にある依頼を片付けることになっている。
「ほら、やっぱり仕事の前に教えない方が良かったでしょう」
「ばか言え。後から教えられた方が気持ち悪いだろうよ。仕事が終わってから『実は僕たち付き合ってたんです』って言われたら、おめえどう思うよ」
「別にどうも」
「お二人さん」
いつまでも続きそうな美空と毒島の掛け合いを、関根が遮った。
「おれはお邪魔みたいだから、ここで失礼させてもらうよ」
「それは困りますね」
何も困っていないような顔で美空が言う。毒島は唾でも吐き捨てそうな顔で「勝手にしろよ。暗い野郎だな」と言った。