毒美(サイコダイバーシリーズ)

「何が楽しくて、男と海を散歩しなきゃならねえんだろうな」
「そう思うなら、ついてくるのをやめてはいかがです」
「ふん__」
毒島は、潮風になぶられている前髪をかき上げた。
「こういう時にしおらしい事を言ってみせるなら、少しは可愛げがあるのによ」
「可愛げがあった方がいいんですか」
「別に」
そこで会話が途切れて、静かな沈黙が二人を包んだ。不意に、美空が足を止めて砂の上に屈み込んだ。次に立ち上がった時、彼の手には小石ほどの大きさをした薄水色の物があった。表面に粉砂糖をまぶした、ラムネ味のグミのような見た目である。
「シーグラスか」
毒島が言った。シーグラスとは、ガラス片が波に揉まれるうちに丸くなって、磨りガラスのような風合いになったものである。美空は手のひらに載せると、二人の間で掲げてみせた。
「綺麗ですね」
美空にしては珍しく、何の含みも感じられない、やけにしんみりとした声だった。海の匂いのする風が、二人の鼻先を撫でていく。
「決めました」
「何だ」
「これを部屋に飾ります」
「好きにしろよ」
すると、美空が視線を毒島に向けて、ふっと目だけで笑ってみせた。
「それで、これに毒島さんという名前を付けます」
「うげえ」
毒島は大げさに顔を歪めてみせた。
「本当、ぶりっ子が好きだなおめえはよ」
「毒島さんの分も探してあげましょうか」
「そんで、それに美空って名前をつけるってか?いらねえよ」
砂浜についた二人の足跡を、風が吹いては掻き消していく。数時間もしないうちに、二人がここにいた痕跡など跡形も無く消えてしまうのだろう。