キッズの頃、生まれて初めて乙女ゲームを遊びました。それがQuinRose社の「ハートの国のアリス〜Wonderful Wonder World〜」です。
なぜそのゲームを……という理由は後述するのですが、これをプレイしてからおよそ10年以上、乙女ゲーム(というか恋愛ゲーム全般)に手を出さずに月日が経ってしまいました。「このまま行くと、人生で唯一プレイした乙女ゲームがこのハトアリになるんじゃないだろうか……」という感慨を覚え、せっかくならと記念に書き残しておくことにしました。
※できるだけ確信に迫るネタバレは避けますが、人によっては台詞の引用等から察してしまう可能性もあるので、一ミリもネタバレされたくないという人はブラウザバックすることをお勧めします
自宅の庭で昼寝をしていた主人公は、二本足で走る“白ウサギ”―ペーター・ホワイトによって、不思議な世界に連れ去られてしまう。辿り着いたのは住人全てが何かしらの武器を携帯し、銃撃戦が日常茶飯事というメルヘンなようでメルヘンではない世界―“ハートの国”。白ウサギから無理矢理に“ハートの小瓶”の中の謎の薬を飲まされ、元の世界に帰れなくなった主人公は「この世界は夢だから、覚めるまで楽しめばいい」と開き直り、行動を開始する。
初代「ハートの国のアリス」は何度かリメイクされており、PC版「アニバーサリーの国のアリス〜Wonderful Wonder World〜」と、PSP版の「ハートの国のアリス〜アニバーサリーVer.〜」があり、自分が当時プレイしたのはアニバーサリーの国のアリスですが、内容はほぼ同じなのでここではハトアリと統一して呼びます。
購入のきっかけ
元々恋愛描写がメインの作品はゲーム漫画問わずあまり嗜んでこなかったため、乙女ゲームも一切プレイせずに過ごしてきたわけですが、なぜハトアリだけには手を出したのかというとファンの考察ブログを読んだからです。
自分はテキストサイト戦国時代からネットにどっぷり浸かっており、そのおかげで長文記事を書いてくれるオタクのことがめちゃくちゃ好きなのですが、ネットを彷徨っている時に見つけたハトアリ考察記事が本当に本当に自分の好みにドンピシャに当てはまり、ゲームの存在を知ると同時に購入に至りました。ゲームの真相自体にもかなり衝撃を受けたのですが、「自分の好きなオタクが好きな物は自分も好きなはずだ」みたいな思考回路で手を出しました。
こんな流れでしたので、記事内に引用された公式ファンブックの記述、ゲーム内の真相エンド含む各エンドの内容、個人の考察という、これ以上ないほどにネタバレをしゃぶりつくしてからゲームを始めるという邪道中の邪道をやりました。
ハトアリは「真相ゲー」
ところで上記のOPを見た人は「キ、キラキラ乙女ゲーだ……!?」となるんでしょうか。自分も初見時はそう思ったんですけど、ゲームの真相を知ってから見ると、「いい意味でパッケージ詐欺」なんじゃないか? と思います。そう思うくらいハトアリのことをメインは恋愛ではなく真相部分だと思っています(※あくまで個人の感想であり、公式ジャンルは「恋愛アドベンチャーゲーム」です)
恋愛ノベルゲーって内容にかなりの差があると思ってて、たとえばエロゲーというジャンルひとつとっても「鬱ゲー」「泣きゲー」「抜きゲー」みたいな通称があるように、主軸がそのゲームごとに違うと思うんですよね。それで言うとやっぱりハトアリは「真相ゲー」と呼ぶのが個人的にはしっくりくるんですよ。突飛な世界観、キャラの性格、主人公の自罰的な性格、家庭環境、すべてが真相に繋がるための伏線として張り巡らされているなあと感じるからです。まさしく真相のために世界が・キャラが・物語が存在している感じ。張り巡らされたクモの糸を手繰り寄せて、それが手の中で一本の線になる瞬間を捉えることができたかのような気持ちよさを感じられる、それがハトアリというゲームだと思っています。
ニトロプラスの「沙耶の唄」、ニトロプラスキラルの「咎狗の血」「sweet pool」とかが同じノベルゲーではめちゃくちゃ近い作風なんじゃないかな。
そしてこれは個人的に、本当に個人的に思っていることなのですが、主人公の内省的な性格が世界観の元となっている部分も含めれば、「さよならを教えて」をかなりポップに、明るく救いのある物語にして、女性向けにしたらこうなるんだろうなみたいな印象をずっと思っています(念のために書きますが、さよならを教えてとハトアリの真相は似ても似つかないものです)
あまりにも真相ゲーすぎて、自分がハトアリをプレイする頃にはジョーカーまで次回作が発売されていましたが「この真相を開示した状態でどうやって次回作を作ったんだ……!?」と困惑してました。実際はアリス(主人公)の自罰的思考にメインを切り替えた感じになってましたね。あとダイヤあたりで世界観を今以上に広げまくってたのが死ぬほどビビりました。あれ以上に伏線を広げられることあるんだ!?って。
好きだったところ
一番好きなのは真相自体なんですが、そこを書くのはダメなので他の部分を挙げると、ここぞというところでバシッと決めてくれる台詞回しですかね。自分はこういうノベル系で一番好きなのが「魔法使いの約束」の都志見先生の文章で、さすがにそれを超えることはないのですが、世界観の鍵になるような台詞は印象に残るものが多く、やっぱシナリオライターってすごいんだなと思わせてくれます。
あと、個人的に「キャラが自分たちの役割やシステム的な部分を俯瞰していて、それを踏まえて自分の心情を語ってくれる」っていうのが性癖なんですが(伝わる?)まほやくに次いでハトアリもこういう台詞が多くて良かった。
「僕らが撃ち合えば、撃ち合うたびに進んでいって、あなたの世界ではどんなものでも死に一歩近づくんです」
「分かっているんでしょう?知っていますよね、アリス」
「死へは僕らが向かわせるんですよ、普段は目も留めてもらえないこの僕らが」
「そう……私達は常に争っている。だが、12という数字が欠けてはならない。
それぞれを表す数字の中には、間違うほどに似ているものや対になるものもある。
12人は、その他大勢よりは意味があるが、見落とされても代わりがきく」
あとは、どのキャラを攻略しても、アリスの自罰的な性格を紐解いていくことが恋愛描写のメインになっていまして、この辺りを丁寧にやってくれてるのが好きでしたね。アリスと同じような性格のプレイヤーは、自分に語り掛けてくれてるみたいで余計に楽しめたんじゃないかな。
作中のキャラは基本、代えが効く存在であると自認してるからこそ享楽的で刹那主義な者が多く、「役目に縛られている」と自負しているからこそ制約の合間を縫って他者を顧みずに自由に振る舞っている人が多いです。そういうキャラたちがアリスの頑なな性格に切り込んでいくアプローチもなかなかに良かったです。
ここらへんでやっぱ強いな~と思ったのはメインキャラのブラッドですかね。キャラの中でも随一で快楽主義者な部分があり(二重の意味で)それでいてアリスの思考を読み取るのがうまい。OPで取り上げられていた「傷つけて欲しいんだろう?罰を待つ目をしている」もいい味を出してる。
「不幸せであることが自慢にならないように、不幸せでないことに負い目を感じる必要もない。恵まれていると思えるなら、恩知らずに生きてきたわけでもないんだろう」
「私達を言い訳にしてしまえばいいのに、君はそうしない。気は許しても、利用はしてくれないな」
あとはキャラとしてはエースも結構好きだったんですよね。アリスの性格への切り口が彼女を肯定するのではなく「俺はこんなに性格が悪いから君みたいな子の方がいい」っていう、自分を下げながらアリスも下げていく感じが。エースは正直ハトアリ時代は薄味で次回作を重ねていくうちにキャラが濃くなっていったのでハトアリだけだと物足りない部分もあるかもしれない。あとでちょっとしたネタバレ語りを後述するんですが(畳んでおくのでネタバレは回避できます)以下の引用台詞も、真相から逆算してエースの性格を設定した故かな~と今になって思います(台詞自体はハトアリじゃなくてクロアリから引っ張ってきました)
「・・・好きにならずにいられないよ。君が自分を嫌えば嫌うほどに、俺は君を好きになる」
「だって、自分にも好かれない子、好きになってあげなきゃ可哀想だろ?」
「君が自分のことを好きになるような子なら、俺は好きになんかならない
そんな女なら、興味をなくすよ」
あとはね~何度も言ってしまうが、やはり真相のために全てが設計されてるところが好きで……(何回言うんだ)
たとえばだけど片目を隠したキャラがやけに多いところとか、アリスが見た目の少女っぽさのわりにやけに達観した性格をしているところとか、「まあ乙女ゲーならよくあるキャラ設計よな」って部分が全て伏線になってるところがほんと~~~~~~に良い……。
本当に、本当に良いんだ……。
令和の今、思うこと
ここまで思い出語りしてきてなんですが、令和の今にプレイするのはちょっとキツイ作風だな~とも思います。そもそもノベルゲーム、乙女ゲーム自体が縮小気味らしいですけど、やはり現代の「世に溢れた他の娯楽との時間の奪い合いをしている」状態で、こういう文章を読む作業だけで50時間かかるゲームってそれ自体厳しいと思う。
これでもハトアリシリーズってもともと「訪問制」というシステムをとっていて、攻略情報を確認しながらどれだけ慎重にプレイしていても、運によってはルート達成できないっていうトンデモシステムを採用されてたんですよね。それは今撤廃されたらしいですが、それでも令和ではキツイものがある。
あと、ハトアリシリーズって文章がとんでもなくくどいんです。声優さんに「一行で済むことをこのゲームは三行で喋らせる」って言われてたレベルなんですよ。色んなレビューサイトでもここをずっと指摘されてるし。声優さんにそこまで言わせるのやばすぎる(たとえ冗談交じりだとしても)
実際にプレイしたからこそ、これくらいのことは言わせてもらうんですが、文章量を今の二分の一にした方が絶対に良い。つまらないギャグシーンが多すぎて、そこを全て削った方がテンポいいし話もまとまります(そんなに!?)このゲームのギャグって、「銀魂をめちゃくちゃつまらなくしたらこうなるんだろうな」って感じなので……。
ヒロインの貞操観念が薄い、下ネタが多い(艶っぽい感じではなく、おじさんの下ネタという感じ)というのも乙女ゲーとして致命的だったなと思います。
しかしそれでも、ハトアリの真相周りとそれのための世界観設定、種明かしの仕方についてはほんとにほんとに好きなので、上記の部分を令和ナイズさえできたら、「さよならを教えて」のように後世に語り継がれるゲームになれたんじゃないだろうか……とずっと思ってるんですよね。
男性向けエロゲーと違って顧客層が狭まりすぎて、まあそこまで広まるのは無理かもしれませんが、古のインターネットでは「咎狗の血」(女性向け18禁BLノベルゲーム)が「実際にプレイしたことは無くても各エンドのネタバレ程度なら知ってるよ!」って一部の男性オタクからは言われてたレベルで知名度があったんですよね。それくらいにはなれるポテンシャルがあったのに……とちょっとだけ惜しくなります。
このハトアリシリーズ、結構波乱万丈な人生(?)を送ってきており、あまり発信しないタイプの公式だったので自分も詳しくはないんですが、私の知る範囲だけでも原画交代が1回、会社倒産が1回、複数キャラのCV変更、劇場版製作するも不評すぎた、という顧客が離れるに値する騒動がけっこう起こってました。
そして会社倒産後になんやかんやあって「スペードの国のアリス ~Wonderful White World~」と「スペードの国のアリス ~Wonderful Black World~」が十年弱の沈黙を経て発売されたわけですが、次回作を出してもらえるのかなあ……という割と望み薄な状態なんですよね。この世はやはりビジネスで周っているので、どれだけ良い作品でも一定の収益を見込めるものでないと制作はされないと思うので、そろそろ20周年を迎えようとしているシリーズの本当の完結が見れる日は来るのだろうか……と思っています。少なくとも私の生きているうちに完結編が見たいですね。
ちなみに一番最新作のOPがこちらです。
さすがに映像技術が流行りの感じになっていますわね~という感じ。あと10年弱の月日が経って原画担当さんの絵柄が変わったのか? それとも「女性向け界隈での流行の絵柄がこれ」になったのか定かではありませんが絵柄もずいぶん変わりましたね。普段男性向けゲームの絵ばかり見ているため、あまり見ない絵柄すぎてビビる。
しかしいつ聞いても、ヒサノさんの歌声は力強くて妖しげな艶もあっていい……。
余談(最近知って衝撃的だった考察)
ところでこの記事を書こうと思ったもう一つの理由がありまして、10年以上経ったいま初めて「そうだったのか!」と思える考察内容があり、衝撃的だったので書き残しておきたかったんです。知人でこのゲームについて語れる人もいないし、このサイト以外に長文を書いておける場所もないんで、記念に書いておこうと……。バリバリにネタバレしてるので畳んでおきます(本当に真相に迫るネタバレ)
ネタバレ
ハトアリでは主人公がエースと結ばれると「その男だけはやめておけ」「趣味が悪い」と周囲から散々に非難されるので、それってエースの性格があまりにも悪すぎるせいなんかなとずっと思ってたんですよ。だって内面についてめっちゃ他キャラに陰口叩かれてるし。
しかしながらとあるブログで「エースの担当している時間が問題なのでは?」と考察されていて、かなり納得しました。
エースは公式ファンブックで「一時」を担当していると明言されています。この一時が、もしかしたらアリスにとって懺悔の時間だったのでは?という内容。
「日曜は礼拝に行って……お墓参りをしてから家で過ごすの」
真相エンド中でアリスが話すこの内容、午後三時(ペーターの時間)は家で姉との時間を慈しんでいたのを考えると、それ以前の時間がこの「お墓参り」だと考えられて、それがエースの時間(一時)にぴったり合致するのでは?という考察です。
アリスにとって一番自分を責め、罪悪感を抱いているのであろう時間ですね。
前の項目で「エースの性格は真相から逆算して設定されたのか?」って書いたのはこの通りで、エースは他キャラと違ってアリスの性格を芯から肯定することはなく、「俺みたいなやつは君みたいな子が好きだよ」というスタンスでずっと来るんですよね。アリスが自罰してる時間がこれをしてくるんなら結構納得できるキャラ設定だなと思いました。
あと個人的に、ファンブックで担当時間が明言されたキャラの中で、なんでこの中にエースも?って正直思ったんですよね(ひどい)まあ人気キャラだからか?と思ってたんですが、「アリスが姉への後悔を一番に感じている時間だ」と公式が匂わせたかったのかもしれない。
ネタバレ終わり。発売から20年経とうとしてる作品で、新しい考察が発見できるって、めちゃくちゃ贅沢なことなんだろうなあ……と思いました。